【JAPiCO】 一般社団法人 日本個人情報管理協会



第5回 住基ネット構築と個人情報保護法成立

「個人情報保護法」の成立には少し無理が入り込んだのではないか、と推測される事情がある。20世紀終盤から、欧米、韓国などのネット推進先進国が着々と「電子行政」を進める中で、日本は電子行政に大きく出遅れてしまった。社会の効率性、行政の効率性で差をつけられれば国力が衰える、ということで、その基盤になる「住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)」を一刻も早く構築しなければならない、と制度つくりを推進しようとしていたが、強硬な反対に出会った。行政に把握されている個人情報が統合されれば、国民の個人情報は丸裸にされるではないか、という不安である。個人の行動まで見張られる強大な「監視国家」ができてしまうのではないか、という不安である。

行政職員には住民情報やその他の個人データを取り扱う際の規則と罰則がすでにあったのだが、この不安感が広がる中で、民間にも個人情報の取り扱いについての厳しいルールが必要だということで、住基ネットの成立と交換条件のような形で個人情報保護法が成立した。個人情報保護法は行政よりも民間企業や医療情報などの保護規則作りが中心だが、その点の関係については議論が深まるわけでなく、住基ネットの早期制定のために、十分に矛盾点が整理されないまま、「走りながら考える」形で、時期が来たら見直すことにして見切り発車した。

欧州ではユダヤ人問題や宗教問題がプライバシー保護の原点だと見てよい。民族に関わる個人データが漏れると生命にかかわる迫害を受ける、という切迫した危機感である。キリスト教でも宗派対立から悲劇が繰り返された。こうした事情から欧州を中心にプライバシーの保護の思想が広がったと思われるが、第2次大戦のドイツ、ナチズムによるユダヤ人迫害の惨劇を経験した後、いっそう、厳格なプライバシー保護の思想が広がっている。

日本でも、やはり、差別問題が存在する。戦前の被差別部落や朝鮮人、沖縄人への差別問題は戦後になって、一部は緩和・解消したものの、なお引きずっている部分もあって、その完全な解決には時間がかかっている。その苦い経験から、プライバシー保護には十分な対応が必要である。さらに、最近では、暴力事件や個人的なトラブルから住居などの情報を秘匿したいという要求もある。このため、住基ネットの使用に大幅な制限がつき、個人情報保護法も一般の個人情報にまで使用制限の枠を厳しくつけて、本来の「個人データを活用して効率の良い行政」や「新たな経済価値の開発による経済活性化」という面が犠牲になって来た。

現在、この状況を解決するための個人情報保護法の改定作業が進んでいる。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization